クロマトグラフィーによる揮発性化合物である香り成分の分析には、溶媒抽出法、ヘッドスペース法、パージ&トラップ法がありその分析方法により結果が異なる傾向があります。ここでは、香りに関しての直接的な分析と、溶媒抽出法による分析、更に極性の異なる溶媒抽出による分析例を示します。
分析の対象とした香辛料は、一般に市販されている練りわさびを使用しました。分析方法を以下に示します。
1. 発生ガス分析(P&T-GC/MS分析)
練りわさび約1.0gをバイアル瓶に採取し、20ml/minのN2ガスを使用し室温で10分間パージを行なうと同時に、そのまま捕集管(Tenax-TA充填)にトラップしました。この段階では捕集剤には多量の水や、アルコール等が捕集されている可能性があり、それらがGC/MS分析時に良好なクロマトグラムを測定するのに妨害物質となる事が考えられます。そこで、これら妨害物質を捕集管(Tenax-TA充填)から除去する目的でN2ガスによるブレークスルーを行ないました。その後、GCに装着した加熱炉中で揮発性化合物の230℃による熱脱着を行い、そのままGC/MSに導入し分析を行いました。
わさびのP&T-GC/MS TIC
1 Allyl cyanide 2 Butyl isothiocyanate 3 Isobutyl isothiocyanate 4 Allyl Isothiocyanate 5 Allyl thiocyanate 6 Butenyl isothiocyanate
2. 溶媒抽出(GC/MS分析)
練りわさび約10gを各2本採取し、一方にMeOH 30mlを加えもう一方にHexane 30mlを加え撹拌後、各溶媒不溶物を遠心分離で沈殿させ、上澄みを採取しました。更に、採取した上澄み液を0.45μmのフィルターでフィルトレーションを行い分析用試料とし、GC/MS分析を行いました。
わさびのMeOH抽出物のGC/MS TIC
1 Acetone alcohol 2 Glycolaldehyde 3 Allyl Isothiocyanate 4 Allyl thiocyanate 5 Acetic acid 6 Methyl 2-oxopropanoate 7 Formic acid 8 Furfuryl alcohol 9 1,2-Cyclopentanedione 10 H-Pyran-2,6(5H)-dione 11 Dihydroxyacetone 12 2-Hydroxy-gamma-butyrolactone 13 Glycerin 14 1,4:3,6-Dianhydro-.alpha.-d-glucopyranose 15 4-Hydroxydihydro-2(3H)-furanone 16 Isosorbide 17 1,2-Benzenediol
わさびのヘキサン抽出物のGC/MS TIC
1 Allyl Isothiocyanate 2 Allyl thiocyanate 3 Butenyl isothiocyanate
P&T法による直接的な発生ガスクロマトグラムでは、イソシアネート関連物質のみが検出されていますが、MeOH抽出物では親水性化合物や一部のイソシアネート化合物が検出されています。一方、Hexane抽出物では3種類のイソシアネート化合物が検出されています。この事から、抽出溶媒の極性により分析結果が大きく異なる事と、P&T法による分析では試料中に含まれる微量化合物も、効率よく分析することが可能であることを示唆していると考えられます。以下にP&T法、MeOH抽出物、Hexane抽出物より得られたクロマトグラムの比較を示します。
比較TIC